銀河鉄道 Another Journeysレドリルアドベンチャー

−前回のあらすじ−
 キーアデスを出発した各停列車はヌームへ向った。
 そこで降りた男は，少年に勇気づけられたのだった。

第006話 群星通過駅

アナ　　「次の停車駅は，小惑星群居住地区1丁目でございます。
ウンス　　次の駅にて超特急の通過待ちを行います。
　　　　　御乗車になられてお待ちください。
　　　　　次の停車駅は，小惑星群居住地区1丁目でございます」

少年　　「超特急？ 駅に停まってた，アレかな…」

と，その車両へ1人の男が入ってきた。ロッテだ。
誰かを探しているかのように，あたりを見回している。

ロッテ　「お，いたいた」

少年の顔をみつけると，そっちへと向った。

ロッテ　「そこ，いいかな？」
少年　　「あ，どうぞ…」
ロッテ　「サンキュ！」

ロッテは少年の対面に座った。
二人に会話はなく，ただ沈黙が続く。
お互いがお互いの様子をうかがっているようだ。

少年　　「……………」
ロッテ　「……………」
少年　　「……………」
ロッテ　「……………♪♪♪〜」

ロッテが鼻歌を歌い出した。

少年　　「……………」
ロッテ　「♪♪♪♪〜♪♪〜……………」
少年　　「……………」
ロッテ　「……………」

なんとなく気まずいロッテは，鼻歌を止めてしまった。
二人の沈黙が続く。

少年　　「……………」
ロッテ　「……………」
少年　　「ふあああぁぁぁぁぁ… (~O~)」
ロッテ　「クク…クスクス……」

ロッテは笑いをこらえていた。
少年はそれに気が付き，自分がなにかおかしいことでもしているのか，
不思議だった。

少年　　「あのう，オレ，何か変ですか？」
ロッテ　「あ，いや，ゴメンゴメン。別に変じゃないんだけどね」
少年　　「？」
ロッテ　「キーアデスから子供が乗ったっていうからさ，どんなヤツが
　　　　　乗ったんだろうって思ってたんだよ。そしたら，はじめての
　　　　　旅なのに熟睡してるし，あくびして退屈そうだし，なんか
　　　　　おかしくなっちゃってね。度胸がすわってるって言うか……」
少年　　「おかしいかなぁ…」
ロッテ　「いやいや，おかしかない，おかしかないよ。
　　　　　おかしかないけど，こうなんか，ツボにハマっちゃったっていうか
　　　　　ね……でも，いい素質だと思うよ。
　　　　　リラックスできるってのは長旅に向いている証拠だよ。うん」
少年　　「おじさんは，旅をしてるの？」
ロッテ　「ん？ ああ，おにいさんは銀河鉄道でこの大宇宙を旅してる。
　　　　　いろんなところへ行って，いろんな人にあって，いろんなことをして，
　　　　　助けたり，助けられたり…まぁ，自由気ままな冒険家ってところかなぁ…」
少年　　「へぇ，おじさん，冒険家だったんだ」
ロッテ　「そう，おにいさんは冒険家なんだよ」
少年　　「おじさん，どんなところを冒険したの？」
ロッテ　「聞きたい？ おにいさんの冒険，聞きたい？」
少年　　「聞きたい！ おじさん，聞かせてよ!!」
ロッテ　「よ〜し，おにいさんの大冒険，耳の穴かっぽじって，よく聞けよ〜」

ロッテは話を続け，自分の旅してきたことを少年に話した。

ロッテ　「……その時訪れた星が，変な星でね……」

少年はそれをワクワクしながら聞いていた。

ロッテ　「……あやうく犯人にされちゃうところだったんだよ……」

時間の経つのを忘れて二人の話は続いた。

ロッテ　「………っていうこともあった」
少年　　「へぇ〜，ね，ね，それからどうなったの？」
ロッテ　「それから？ それから……ん…そろそろ通過するな」

………ーーーフォォォォォォオオオオ
遠くからだんだんと近づいてくる。

ガタンガタンという衝撃音を発しながら機関車が通り過ぎていく。
少年の乗る列車の窓がゆれて，外からの音と不協和音を奏でていた。

少年　　“あ……”

少年は通り過ぎていく客車の中に，地球で出会った女性がいるのを見た。
ほんの一瞬だったが，それで十分だった。

フォォォォォォォーーー……

機関車は過ぎ去り，グレインの方へと向っていった。
少年は，機関車の消えていく様子をじっと眺めていた。
そんな少年を見ていたロッテが話しかけた。

ロッテ　「気になるかい？」
少年　　「え？ あ…いつか乗ってやろうって思っているんだけど……」
ロッテ　「ふぅん……目的は機械の体…かな？」
少年　　「そうだよ…機械の体をタダでくれる星へ連れていってくれるって聞いてる」
ロッテ　「それで，機械の体を手に入れてどうするんだ？」
少年　　「変えるんだ…」
ロッテ　「変える？ 何を？」
少年　　「キーアデス。キーアデスを変えてみせる」
ロッテ　「なるほど…それで大宇宙に飛び出した，というわけか。それは壮大だな……」

ロッテは何か考え事をしたかと思うと，突然，腰の銃を抜き，少年の眼前へ突き付けた。
一瞬の出来事だった。
少年はあまりの出来事に何も出来ずにいた。ロッテが少年を睨み付ける。
少年は，動けなかった。
動けば撃たれると思った。
動かなくてもいずれ撃たれる，とも思った。
だが何も出来なかった。
何も出来なかったが，何かしなければいけない，と思った。
ただ，銃口をじっと見つめていた。
額から汗がふきでて，顔をつたい，ポタリと落ちた。
少年が固唾を飲んだ，その時。

ロッテ　「バン!!」
少年　　「ーー!!!!!!!!!」

少年は，驚いて，座席からズルリと落ちてしまった。
撃たれるかと思った恐怖と，撃たれたと思った驚きと，
自分が生きている安堵とが絡み合い，複雑な表情だった。

ロッテ　「……いや，ゴメンゴメン，驚かせちゃったね。
　　　　　でも，オレがキミの命を狙う敵だったらどうする？
　　　　　キミはいまので死んでたよね。
　　　　　この宇宙は何が起こるかわからない。無法地帯もある。
　　　　　いいか，強くなれ。生き抜くために，な。
　　　　　何事にも負けない精神力と，いかなる状況にも対応できる知力と，
　　　　　強敵に立ち向かっていける強さがあれば，なんとかなる」

ロッテは少年を起こし，座席に座らせた。

ロッテ　「さっきの目，よかったよ。最後の最後まで諦めようとしない…。
　　　　　いずれ強くなるよ。死ななければ，生き続ければ自然とね。
　　　　　キミはそういう素質を持ってる。
　　　　　なにがなんでも生き抜こうという心を持ってるみたいだから」

少年　　「……おじさん……なんかカッコイイ………」
ロッテ　「おうよ，おにいさんは伊達に宇宙を旅してないからな」

アナウ　「大変長らくお待たせいたしました。
ンス　　　当列車はまもなく発車いたします。
　　　　　ポイント通過のため，発車後揺れますのでご注意ください。
　　　　　次は，グレイン，終点でございます」


この大宇宙で大事なことは死なないことだ。

たとえ腕がなくなろうと足がちぎれようと

命の炎が消えない限り諦めてはダメだ。

諦めた者は大宇宙では生きていけない。

死んでしまえば，そこで終わってしまう。

心の奥に秘めた夢もそこで潰えてしまうのだ。

だが生きている限り夢叶うチャンスが訪れる。

そう信じて生き抜くことに意味があるのだ。



【第007話へつづく】

−次回予告−
少年はグレインで再び黒服の女性に出会う。
だが，予想もしなかった事態へ急転してしまう。
次回，第007話は「新たなる旅立ち」をお送りします。