銀河鉄道 Another Journeysレドリルアドベンチャー

−前回のあらすじ−
 キーアデスを出発した各停列車はヌームへ向った。
 そこで降りる男は，少年に勇気づけられたのだった。

第005話 大地が泣いている

列車の窓から見えるその星は赤かった。血の赤にも見えるその色は，
不気味でもあり，悲しげでもあり，何か不思議な感覚にとらわれる。

アナ　　「まもなくスラムに到着します。本日は通常よりも強い砂嵐が発生
ウンス　　しております。お降りの方は十分に注意をお願いいたします。
　　　　　なお，停車後，すぐの発車となります。まもなくスラムです」
少年　　「スラム……か……ふわぁあぁ，う〜ん……ZZZzzzz…」

少年は睡魔に襲われ，そのまま眠ってしまった。
列車はスラムへ降りていく。そして，駅へ入る。
しばらくの間，停車したままだった。

それから10数分たった後。

車掌があわただしく駆けていた。
眠っている少年をみつけると，申し訳なさそうに起こした。

少年　　「あ……ん……んん…ふあぁぁ，あれ？ もう，グレイン？ あれ？」
車掌　　「お，お客様，申し訳ありません。ちょっとトラブルがありまして…(汗)」
少年　　「……(むにゅむにゅ…)……トラブル？
　　　　　ん〜…遅れてるの？ (ぼけ〜〜〜〜)……いいよ〜，急いでないから……」

少年がそのまま眠ろうとすると，車掌はすかさず起こす。

車掌　　「お，お客様，じ，実はお手を借りたいのですが…。
　　　　　大変申し訳ありませんが，お願いいたします」
少年　　「(おめめトロロ〜ン)……手…？ …んー……取れないよ？ …貸せないよ？」

少年は，寝ぼけて訳の分からないことを言っている。
車掌は，これ以上問答を続けてても意味がないと判断し，
その手をつかんでそのまま連れていってしまった。
そして，トラブルの現場へと到着。
そこでは，1頭の牛(のような動物)が立ち往生していた。
押しても引いてもビクともしない。だから人を集めて，とにかく降ろそうというのだ。

車掌　　「すみません，お客様，この牛を…」

車掌が振り向くと少年は，

少年　　「ぐぅ〜…ZZZzzz」

寝てた。

車掌　　“ね，寝てる!? (ガビーン) っていうか寝るなーーーー!!”

立場上，思い切りツッコめない車掌は，心の中でツッコミした。
そこへ，マントを羽織った男(ロッテ)がやってきて一喝した。

ロッテ　「起きろー!!」

その声に驚いた少年は，思わず起きてしまった。
何事か，とキョロキョロする少年。その顔は驚いた顔だ。

ロッテ　「コイツが立ち往生して，発車が遅れてる。
　　　　　強引に降ろすから手を貸して欲しい。そうだろ？ 車掌さん」
車掌　　「あ，はい，そういうことです」
少年　　「え…っと，あ…，え？」

少年はいきなりのことで何がなんだかわからない。

ロッテ　「シャンとしろ，シャンと！」
少年　　「！」

少年は完全に目が覚めた。

ロッテ　「よし。じゃあ，みんなでせーので押すぞ。いいか〜せーの！」

その掛け声で全員が一斉に牛(のような動物)を押し出した。

車掌　　「あぁ，よかった…これで発車できます」

車掌は発車できることを報告しに行った。

若夫婦　「皆さん，ありがとうございました」
ロッテ　「よかったね。がんばれよ！」
若夫婦　「あ，はい。ありがとうございます」

少年は牛(のような動物)を見て，言った。

少年　　「あの…，これ，どうするんですか？」
若夫婦　「オレたちはこの星を開拓するんだ。コイツはその協力者。
　　　　　ま，家族みたいなもんさ。別にどうしようとか，そういうのはないなぁ」
少年　　「ここを，開拓？」

少年はあたりを見回した。そこは，荒れ果てた土地。
赤く染まった乾いた土が一面に広がっていた。
まるで，死の大地のように…。
こんなところをどうにかできるのか，と少年は思ったのである。

若夫婦　「オヤジ達もさ，ここに来て同じようなことをやったんだ。
　　　　　夢叶う前に，スラムの土になっちまったけどね。昔の話さ…」
ロッテ　「！」
若夫婦　「！」
少年　　「？」

その時，急に風が強くなり突風が吹き荒れた。
風は赤い土を舞い上げる。まるで竜巻のように。

オオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォ

その音は，まるで何者かが泣いているかのような音だった。
大地を駆け巡るような，低い音。
大地が泣いているかのようにも聞こえた。

オオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォ

しばらく大地が泣き，そして風がおさまった。
風がおさまって，列車は発車することとなった。

若夫婦　「大地が泣こうが，負けない！
　　　　　きっといつかこの星を緑でいっぱいにするよ」

列車は発車する。
スラムに降り立った若夫婦とツガイの動物は，列車が見えなくなるまで
見送っていた。

惑星スラム。かつて惑星グレインの人口増加に伴う移民計画であがった
候補地。まるで生き物をよせつけないかのような渇いた大地に，幾度と
挑んだが，健闘むなしくこの星の大地となっていった者も多い。
その後，新たに惑星群を利用した移民計画が持ち上がり，スラムへの移民
計画は中止になったのである。



この星を訪れた旅の詩人が言い残している。　



『この赤い土には，開拓者達の血と汗と

涙と，そして命が染み込んでいる…

だから，こんなに赤いのだ…

大地が泣いているのではない

彼らが泣いているのだ…』



と。




【第006話へつづく】

−次回予告−
移民群星へ到着した各停列車。
そこで，特急通過待ちをすることになる。
次回，第006話は「群星通過駅」をお送りします。