銀河鉄道 Another Journeysレドリルアドベンチャー

−前回のあらすじ−
 謎の女性から銀河鉄道のパスを貰うことを拒んだ少年は，
 両親の残した切符を手に，旅立った。

第003話 旅立ちという名のレクイエム(その3)

（市長室）

コンコン。ドアをたたく音。

市長　　「入れ」
男　　　「例の超特急のことですが，故障のための停車ということです」
市長　　「では，とくに問題はないのだな」
男　　　「は，おそらくは…」
市長　　「おそらく，とは何だ？」
男　　　「は，それが実は，…………」

男が市長の耳へささやくと，市長は急に顔色を変えた。

市長　　「まさか，この星へ!?」
男　　　「はい，見たものがおりました。確かな情報です」
市長　　「あの女に見放された星の末路をワシはしっとる。恐ろしい，恐ろしい…」
男　　　「市長…お気を確かに………」
市長　　「う，うむ。とにかく，正規の乗客以外をよく見張っておくんだ。
　　　　　むやみやたらにこの星から出て行かれては，ワシの命に関わる…」
男　　　「は」

男は，部屋を出ていった。
その時，エタファンのヘルマザリアのごとく(笑)，市長の背後から声がした。

ワスプ　「たかが，人間の女ごときに，なにを恐れる」
市長　　「だ，誰だ!? !!? お前は………いや，あなたは………」

そこには，マントに身をつつんだ男が立っていた。
そのマントには，なにか紋章のようなものが描かれていた。
顔はフードに隠れて確認はできないが，市長にはそれが誰なのかわかったようである。

市長　　「ワスプ様，なぜ，このようなところに…………」
ワスプ　「君にひとつ聞きたいことがある」
市長　　「は…，な，何か…」
ワスプ　「数日前，銀河鉄道の超特急がこの星に来たはずだ」
市長　　「は，駅に停車しております。それが，なにか………」
ワスプ　「なぜ，放置している？ なぜ，破壊しない？ あれは，君にも都合の悪いものではないのかね？」
市長　　「し，しかし，あの列車に何かあれば，銀河鉄道の管理局が黙っては…」
ワスプ　「そんなもの，我が艦隊が蹴散らしてくれるわ」
市長　　「そ，それに，………」

ワスプは市長に近づき，一笑して言い放った。

ワスプ　「この私と，どちらが恐ろしい？ よく考えることだな」
市長　　「は……………………」

市長の顔は青ざめ，恐怖に満ち満ちていた。
その顔が，ワスプという男の恐ろしさを語るかのごとく。
ワスプは，続けた。

ワスプ　「肩の力を抜きたまえ。
　　　　　今回は，君をどうしようというわけではない。
　　　　　ま，警告と受けてもらっていい。
　　　　　だが，2度はない。
　　　　　そこで，だ。あの列車をなんとかしたまえ」
市長　　「な，なんとかとおっしゃいますと……」
ワスプ　「くくくく……，君はとことん滑稽だな。
　　　　　それくらい，自分で考えることだ。
　　　　　己の命を天秤にかければ，自ずと答えが見つかるはずだ。
　　　　　私を失望させないでくれたまえよ，くくくく」


（キーアデスセントラルステーション）

惑星キーアデス唯一の銀河鉄道の駅，キーアデスセントラルステーション。
セントラルとは名ばかりで，実際には，各駅停車の列車が1日数本往復するのみ，
しかも，同じ太陽系の第8番惑星グレインまでの，いわゆるローカル路線だ。
少年は，この路線の最終駅グレインまでの切符を手にしていた。

少年　　「え〜っと，どこから乗ればいいんだ？」

少年が，構内をうろうろしていると，そこへ警官が駆けてきた。

警官　　「きさま，ここでなにをしている!?」

少年は，ムッとして切符を見せ，言った。

少年　　「何って，列車に乗るに決まってるじゃないか！ 切符だってほら！」

警官は，少年が切符を持っていたことに驚き，何も言えなくなってしまった。
少年は，してやったりという顔で，さらに続けた。

少年　　「ね，どこから乗ればいいのか，教えてよ」
警官　　「そんなものは，駅員に聞け！」

警官は気に入らないらしく，捨て台詞のように言って，立ち去ってしまった。
少年は駅員に聞き，ホームへ向った。
少年はしばらくの間，目の前の列車をしげしげと眺め，そして乗車した。
列車の中で彼は，いままでのことを思い出しながら，この星との一時の別れに
なんともいえない気持ちでいた。
その列車のすぐ隣には，見たこともない列車(機関車)が停車していた。
少年は思った，これが超特急なのか…いつか乗ってやるぞ，と。
そして，列車は動き始めた。
黒服の女性は，その各駅停車の列車を見送り，少年の言葉を思い出しながら超特急に乗った。
それぞれがそれぞれの思いを胸に…。


小さな惑星・キーアデスに生まれ育った

少年が未知の大宇宙へ飛び出した。

多くの困難や苦労が待ち受けていることを

承知で，己の信ずるままに，

彼は歩んでいくだろう。

少年の旅は今始まったのだ。



時にして星暦66776年，少年10歳であった。




【第004話へつづく】

−次回予告−

キーアデスを周回する惑星型人工衛星ヌーム。
だがそこには，悲しき現実が待ちうけていた。
次回，第004話は「惑星型人工衛星ヌーム」をお送りします。